ステマ規制から3年、事故は「お客様の声」で起きた ― PR投稿を転載するときの死角

企業案件の投稿に「#PR」を付け忘れたら事故になる・・・。
そのくらいの感覚は、発信する側にも発注する側にも、かなり浸透してきたと思います。
広告まわりの仕事をしてきた筆者から見ても、PR表記はもう特に気をつけるべき話ではないように見えていました。

ところが2026年10月20日、消費者庁が出した措置命令で問われたのは、投稿そのものではありません。
依頼して投稿してもらったInstagramの投稿を、自社サイトへ転載した表示です。
PR表記の運用が進んだ先で、事故は「出すとき」ではなく「使い回すとき」に起きていました。

措置命令の中身は…

対象は、布団乾燥機「FLEURISTE」(専用アロマカートリッジを含む)を販売する株式会社giobaiです。
措置命令には2つの違反が並んでいます。

本題は、ステルスマーケティング(ステマ)告示への違反のほうです。
消費者庁の公表資料によると、giobaiは第三者に商品の無償提供や対価の提供を条件としてInstagramへの投稿を依頼し、その投稿画像の一部を抜き出して自社サイトに掲載していました。
見出しは「User's Voice」「SNSでも大人気」です。様々な商材のLPによくある定番のセクションですよね。
掲載は2024年7月11日から同年12月6日まで続きました。
抜けていたのは、投稿を依頼したという事実の表示です。
投稿した人の言葉も写真も本物で、元の投稿の側ではPR表記があったのかもしれません。
ただ転載先のページからは、それが事業者の依頼で生まれた投稿だとは分かりません。
消費者庁は、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難な表示だとして、告示違反と判断しました。
命令の内容は、違反の事実を一般消費者へ周知すること、再発防止策を講じて役員や従業員へ周知すること、今後同様の表示を行わないことなどです。
なお、もう1つの違反は、ダニ対策や除菌の効果表示に合理的な根拠がなく、実際より著しく優れていると示した優良誤認です。

参考:消費者庁「株式会社giobaiに対する景品表示法に基づく措置命令について」

PR表記は「投稿する側」では、ずいぶん徹底されてきた

ステマ規制が始まったのは2023年10月1日です。
内閣府告示が対象にするのは、事業者が行う表示であって、一般消費者が事業者の表示だと判別することが困難なものです。
施行から3年ほどが経ち、少なくとも発信の現場ではお作法が揃ってきました。
インフルエンサー施策では、依頼時の書面やチェックシートにPR表記の項目が入ることが珍しくなくなりました。
アフィリエイトでも、サイト冒頭に「プロモーションを含みます」と書くだけでなく、個別の表示の近くでも広告だと分かるようにする、という考え方が広がっています。
消費者庁のQ&Aも、動画を途中から見た人に伝わるか、といった細部まで踏み込んでいます。
読む側も慣れて、PR表記のない露骨な宣伝投稿はかえって目立つようになったかもしれません。

正直なところ、PR表記まわりは、特に慎重にならなくても大丈夫なところだと思っていました。

今回の件で引っかかったのは、こなれてきたはずのステマ規制で、なぜ事故が起こったのか。

答えはシンプルで、徹底されたのは投稿側の作法だけで、その投稿を後からどう扱うかという工程には、作法が届いていなかったからだと思います。

転載した投稿は別の扱いになる

転載が厄介なのは、判断の対象が元の投稿から転載先のページへ移るからです。
ステマの判断は大きく2つに分かれます。
その表示が「事業者の表示」か、そして事業者の表示だと一般消費者に判別できるかです。

元のInstagram投稿は、投稿者本人のアカウントで、PR表記と一緒に公開されていたかもしれません。
ところが自社サイトへ切り出して並べ直した瞬間、表示を作っているのは事業者です。
選んだのは事業者で、抜き出した範囲も事業者が決め、見出しを付けたのも事業者です。
投稿者のアカウント、前後の文脈、元のPR表記は、トリミングやレイアウトの都合で簡単に落ちます(PR表記が画像の隅にあれば、なおさらです)。
つまり転載先の表示は、元の投稿のコピーではありません。
事業者が新たに作った表示として、転載先のページ全体で判断されます。
元の投稿で適切にPR表記をしていたことは、転載先の表示を正当化しません。
この考え方は、消費者庁のQ&Aでも以前から示されていました。
事業者の表示に当たるインフルエンサー投稿を「お客様の声」として自社サイトに掲載することについて、消費者庁は「適当ではありません」と答えています。
載せる場合は、依頼した投稿であることが、サイトを見た人に明瞭になる形にする必要がある、とも答えています。

参考:消費者庁「ステルスマーケティングに関するQ&A」

ここに、PR表記文化と制作文化の断絶があります。
投稿を出す工程では「関係性を明かす」が合言葉でも、商品ページを作る工程の合言葉は「良い素材を、きれいに並べる」です。
素材として渡された画像に、依頼の経緯という情報は付いてきません。

付いてこないものは落ちる。

線引きの条件も、例外も書いてある、が・・・

では線引きの基準がないのかというと、そうでもありません。
たとえばアンケートの回答を「お客様の声」として引用するケースです。
消費者庁のQ&Aでは、回答を無作為に選び、恣意的に抽出することなく、内容に変更を加えずそのまま引用する場合は「事業者の表示」に当たらない、とされています。
逆に、好意的な評価だけを選んで引用する場合や、「良い点」と「悪い点」の両方が書かれた回答から良い点だけを抜く場合は、事業者の表示に当たり、それが明瞭になる表示をしなければ告示違反です。

使う言葉は特に定められておらず、「広告」「PR」でも、「A社から商品の提供を受けて投稿している」のような文章でもよく、表示全体から明瞭になっていればよい、という建て付けです。
条件も例外も書いてあるのに、それでも実務で「ここから先が違反です」と線を引くのは難しい、というのが筆者の感想。
理由は、判断材料のどれもが素材そのものには付いていないからです。
引けない理由は、大きく3つあります。

1つ目は、判断の単位が投稿ではなく表示全体だという点です。
同じ投稿画像でも、見出しが「User's Voice」なのか「当社が依頼した投稿」なのかで評価は変わります。
並べる順序、抜き出す範囲、近くに置くコピーまでが判断に入り、素材ファイルを1点ずつ審査して「これは安全」とは言えない構造です。

2つ目は、「自主的な意思による投稿かどうか」が外形からは見えない点です。
Q&Aでは、無償提供や感想投稿の声掛けがあっただけでは直ちに事業者の表示になるとは限らないケースも示されています。
逆に、内容の指示がなくても、やり取りの内容、対価の内容や提供する理由、過去や将来の取引関係などを総合して、事業者が表示内容の決定に関与したと判断される場合があります。
契約書に「PR表記必須」と書いたかどうかだけで決まらないし、書いていないから安全でもありません。
関係性の濃さで決まる以上、チェック項目の形に落としにくいのです。

3つ目は、「恣意的に抽出しない、そのまま引用するなら事業者の表示ではない」という例外が、商品ページの作り方と相性が悪い点です。
商品ページはそもそも、良い声を選び、短く抜き出し、読みやすく再配置するために作られます。
無作為に選んで全文をそのまま載せる「お客様の声」は、広告のページとしてはほとんど成立しません。
例外の条件を満たせる運用は、実際にはかなり狭いと考えた方がよさそうです。

転載の形事業者の表示との関係
第三者の表示を恣意的に選別せず、内容を変更せずに引用する事業者の表示に当たらないとされる場合がある。依頼投稿かどうかは別に判断する
好意的な声だけを選ぶ、良い点だけを抜き出して「お客様の声」に載せる事業者の表示に当たる。明瞭な表示がなければ告示違反になり得る
依頼したインフルエンサー投稿を抜粋し、依頼の事実を示さず「User's Voice」として載せる今回の措置命令でステマと認定された形
依頼した投稿であることを、各投稿の近くで明瞭に示して載せる少なくとも「判別困難」とはされにくい。ただし見出しや抜粋の仕方次第で表示全体の判断は残る

チェック体制も「投稿時点」に寄っている

今回の表示を作ったのが社内の誰かは、公表資料からは分かりません。
ただ、似たようなページが出来上がるまでの分担は想像がつきます。
広告やSNSの担当(あるいは代理店)がインフルエンサーを手配し、制作側は公開済みの投稿を素材として受け取って切り出して並べ、ECの運営側はUGCの収集ツールで取り込んで表示し続けます。

こうした分業では、投稿前にPR表記を確認していても、転載時に同じ観点で確認されるとは限りません。
公開後の再利用が制作や運営の工程に移ると、投稿時の確認内容が引き継がれず、「転載先で依頼の事実が分かるか」という問いが抜け落ちる可能性があります。
今回の会社で実際にどのようなチェック体制だったかは不明ですが、筆者にはこの工程の継ぎ目が気になります。

規制の対象は、表示内容の決定に関与した事業者(広告主)です。
消費者庁のQ&Aでも、依頼を受けて投稿するインフルエンサーは対象外だと整理されています。
手配した代理店でも、切り出した制作会社でもなく、載せた事業者が責任を負います。
だからこそ、投稿の出自を工程の最後まで運ぶ仕組みがないと、担当者が善意で「人気の声を集めたページ」を作るだけで、今回のような表示が出来上がってしまいます。
故意の有無や社内の経緯は分かりません。それでも筆者には、工程の継ぎ目で広告としての出自が失われ得ることを示した事例に見えます。

線の内側を探すより、転載の手前で止める

代わりに置けるのは、転載する前の確認を工程に埋め込むことです。
筆者が実務で最低限そろえたいと考えるのは、次のあたりです。
順番に全部やる必要はなくて、まず公開中のページの洗い出しからです。

  • 既存ページの確認:公開中の「お客様の声」や「SNSで話題」のコーナーを洗い出し、載せている投稿の出自を確認する。新しく作るページの公開前チェックにも、転載素材の出自確認を入れる
  • 投稿ごとの出自の記録:依頼の有無、無償提供や対価の内容、契約ややり取りの記録を、投稿のURLとひも付けて残し、担当者が交代しても追える形にする
  • 転載は関係性ごと運ぶ:依頼した投稿を載せるなら、転載先でも各投稿の近くに依頼の事実や「広告」「PR」など関係が分かる表示を置く。ページ冒頭の包括的な注意書きだけで済ませない
  • 切り抜き方のルール:元の投稿のPR表記がトリミングで落ちる素材は使わない。良い点だけを抜く編集をするなら、事業者の表示として扱う前提で見せ方を決める
  • 枠の名前と中身を一致させる:「お客様の声」「User's Voice」という枠には自主的な声だけを入れ、依頼した投稿は枠を分ける。混ぜる設計自体を見直す
  • UGCツールの取り込み条件:自動で取り込む場合は、依頼投稿が混ざる前提で選別や表示の方法を確認する。ツールが表示しているから大丈夫、とは考えない

どれも法律の線引きを代行するものではありません。
迷う素材が出たときに、「第三者の自主的な声に見えていないか」と逆向きに問うためのものです。
その問いに引っかかるなら、自主的な声としては見せない。
載せるなら事業者の広告と分かる形で載せるか、載せないかです。

PR表記は、投稿に一度付ければ終わるものではありませんでした。
素材と一緒に、転載先まで運び続けるものです。
徹底されたのは発信の作法で、問われたのは再利用の作法。
この継ぎ目は、インフルエンサー施策をやっている事業者ならどこにでもあります。
線が引けないことを言い訳にせず、継ぎ目に確認を1つ置く。
それが今回の措置命令の、いちばん実務的な読み方です。

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