最近、広告会社の存在感が以前より薄くなってきたように感じることがあります。
もちろん広告市場そのものがなくなったわけではありませんし、デジタル広告は大きな市場のままです。
ただ、広告運用の仕事はかなり変わりました。
Google Adsでは、検索語句の拡張、広告文の生成、遷移先URLの選択などをAIに任せる「AI Max」が広がっています。
2026年にはDynamic Search Adsなど従来機能のAI Maxへの移行も進み、Google自身が「manual maintenanceからAI-powered growthへ」と表現するほど、運用の自動化を前面に出しています。
Google「We’re upgrading Dynamic Search Ads to AI Max」
筆者は以前仕事で、広告運用(掲載・出稿)を行っており、アドテクにも興味が持ち広告業界のプレイヤーを調べていました。
当時はDSP、SSP、アドネットワーク、リワード広告といった言葉が飛び交い、スマートフォン広告を扱う会社が次々と上場していた時期です。
あの頃よく名前を見た会社は、2026年の今、何をしているのでしょうか。
久しぶりに調べてみると、名前はそのままでも中身がかなり変わっている会社が目につきました。
2010年代は「広告をどう配るか」に価値があった
インターネット広告のプレイヤーは、技術やデバイスの変化に合わせて何度も入れ替わってきました。
ITバブル期にはポータルサイトやバナー広告、検索広告、アフィリエイトが伸びました。
フィーチャーフォンでは公式サイトやモバイル広告、コンテンツ課金が大きな市場になります。
そしてスマートフォンの普及で、アプリと広告在庫が一気に増えました。
そこで存在感を増したのが、広告在庫と広告主を自動でつなぐDSPやSSP、アドネットワークです。
広告枠を大量に束ね、データを使って「誰に、どの広告を、いくらで見せるか」を最適化する技術自体に大きな価値がありました。
2010年創業のフリークアウトは、2011年に国内初をうたうDSP「FreakOut」をリリースしています。
同社の沿革には、当時まだ国内にほとんど存在しなかったRTB市場を立ち上げていった様子がかなり詳しく残っています。
今見ると、DSPやSSPは広告業界の一機能として当たり前に感じます。
当時は、そこ自体が新しい産業でした。
久しぶりに見ると、みんな違う会社になっていた
当時の印象のまま見に行くと、「え、いまそこなんだ」となる会社がけっこうあります。
| 会社 | 当時の印象 | 2026年の主な方向 |
|---|---|---|
| ファンコミュニケーションズ | アフィリエイト、スマホ広告 | A8.netを軸にファン・インフルエンサーマーケティングへ拡張 |
| バリューコマース | アフィリエイト | マーケティングソリューション、トラベルテック、新規事業 |
| アドウェイズ | アフィリエイト、アプリ広告 | 広告エージェンシー、アドプラットフォームを中心に継続 |
| CARTA HOLDINGS | メディア、アドテク | 総合マーケティング、EC、DX、データなどへ拡張 |
| ジーニー | SSP、DSP | 広告プラットフォームとSaaSを横断 |
| マイクロアド | モバイル広告、DSP、SSP | データプラットフォームと広告配信を軸に継続 |
| フリークアウト | DSP | 広告に加え、UUUM、スポーツ、リテールメディアなどへ拡張 |
| アイモバイル | アドネットワーク | 「ふるなび」を中心とするコンシューマ事業と広告の二本柱 |
| Speee | SEO、広告、Webマーケティング | レガシー産業DX、金融DX、DXコンサルティング |
| ユナイテッド | スマホ広告、ゲーム | 投資、教育、人材、アドテクなどの事業群 |
| アクセルマーク | 広告、ゲーム | 広告、IoTヘルスケア、ブロックチェーンなど |
細かく見れば各社の事情はかなり違いますが、「スマホ広告会社」という括りだけでは説明できなくなった会社が多いことは共通しています。
広告に残った会社と、広告の外へ出た会社
並べてみると、違いは「広告で得たものを、その後何に変えたか」にありそうです。
顧客基盤を広げた会社、自社サービスを育てた会社、SaaSやIPを持った会社、かなり遠い別事業へ進んだ会社まであります。
その中で、アドウェイズはかなり「広告会社のまま」に見える会社です。
現在もエージェンシー事業とアドプラットフォーム事業を明確に掲げ、UNICORNやJANet、Smart-Cなど広告領域のサービスを続けています。
マイクロアドも、かなり広告の延長線上にいます。
サイバーエージェント内で始まった広告事業から、DSPやSSPを経て、現在はデータプラットフォーム「UNIVERSE」と広告配信を軸に展開しています。広告そのものを離れるのではなく、配信技術からデータ活用へ価値の置き場所をずらしてきた会社に見えます。
CARTA HOLDINGSやジーニーは、広告を捨てたというより、広告を入口に扱う領域を広げたタイプです。
CARTAは総合マーケティング、EC支援、LINE活用、テレビCM、リテールDX、ベンチャーキャピタルまで並びます。
ジーニーも広告とSaaSの両方を持ち、2026年2月時点で広告・SaaSプロダクトのアクティブ取引社数を6,800社超としています。
広告運用だけで終わらず、その先のマーケティングや営業まで取りにいく流れです。
アイモバイルは少し違います。
2007年の設立当初からインターネット広告を手がけながら、2014年に開始した「ふるなび」が大きな柱になりました。
現在は「コンシューマ事業」と「インターネット広告事業」の2セグメントで、ふるさと納税、トラベル、ポイントなども展開しています。
広告で培った集客やマーケティングの力を、自社サービスにそのまま持ち込んだ例としてかなり分かりやすいです。
「広告の次」の作り方としては、かなり筋が通っています。
さらに見ていて「そこまで行ったのか」と感じたのがSpeeeやユナイテッドです。
Speeeの現在の事業領域は、DXコンサルティング、レガシー産業DX、金融DXです。
不動産、リフォーム、介護などのマッチング領域から、ブロックチェーンを使った金融インフラまで扱っています。
ユナイテッドは投資事業に加え、個別指導塾、人材紹介、デザイナーマッチング、Web・アプリ開発、スポーツDX、広告・ゲームといった事業群を抱えています。
昔の「スマホ広告とゲームの会社」という印象で止まっていると、かなり面食らいます。
ユナイテッドは特に、昔の記憶だけではもう説明しづらい会社になっています。
フリークアウトは広告の周りに「人」を増やした
個人的に、今回いちばん「変わったけど、よく見ると筋は通っている」と感じたのがフリークアウトです。
同社は今も広告事業を続けています。
一方で、2023年にUUUMを連結子会社化し、2025年には完全子会社化。
2026年にはアスリートマネジメントを行うUDN SPORTSも連結子会社にしています。
DSPの会社だったはずが、クリエイターやアスリートまでグループに入っている。
一見するとずいぶん遠くまで来たようですが、広告という軸から見るとそこまで不自然でもありません。
広告枠を効率よく買う技術だけでなく、広告価値を持つクリエイターやアスリートとの接点まで持つ方向へ広がった、と考えるとつながります。
広告の「配信技術」から、その周辺にあるメディアや人へ資産を広げていった形です。
最初はずいぶん遠くへ行ったように見えましたが、こう整理すると意外と一本につながります。
A8.netは25年以上たっても主力だった
その一方で、別の意味で妙に感心したのがファンコミュニケーションズです。
A8.netのサービス開始は2000年。
2026年になっても同社はA8.netを主力事業として説明しています。
公式FAQでも、A8.netを広告主とメディア会員を仲介する成果報酬型プラットフォームとして「主力事業」と明記しています。
しかも2026年5月には、メディア会員向け管理画面を全面リニューアルし、「スマホ対応」を大きな変更点として発表しています。
2026年にスマホ対応、という字面だけを見るとなかなか・・・。
それでもA8.netは、2026年のアフィリエイト利用者調査で16年連続の満足度1位を獲得したと発表しています。
ここを見ると、テック企業の強さは必ずしも最新の技術だけではないと感じます。
広告主がいる。
媒体運営者がいる。
案件が蓄積されている。
成果計測と支払いの仕組みが長年使われている。
A8.netの場合、システムの新しさ以上に、その「市場」自体が資産になっていたのでしょう。
最新技術を追い続けた会社とは別の強さで、これはこれでかなりしぶとい。
隣接領域へ広がる会社と、次の柱を探す会社
1999年にアフィリエイトサービスを始めたバリューコマースは、少し違う道を進んでいます。
現在のIRでは、マーケティングソリューションズ、トラベルテック、新規事業を経営方針の柱として掲げています。
古い成果報酬型広告を守るだけではなく、ECやCRM、リテールメディアなど、購買に近い領域へ広げてきた会社です。
一方、アクセルマークは現在も広告ネットワーク「ADroute」、DSP、Google広告やSNS広告を扱うトレーディングデスク、EC支援などの広告事業を展開しつつ、IoTヘルスケアやブロックチェーン関連事業も掲げています。
バリューコマースのように購買に近い隣接領域へ広がる形と、アクセルマークのように本業から距離のある新規事業まで探しにいく形では、同じ多角化でも見え方がかなり違います。
後者は、正直なところ「次の柱を探している感」が強く見えます。
ただ、前者でもプラットフォームや大口取引先への依存が強ければ、その事業方針に業績が左右されます。
広告会社は企業と媒体の間にいる存在なので、どこへ広がるにしても「何を自社の資産として持てるか」が難しいところです。
広告会社の変化は、多角化だけではなかった
今回見直した企業の中では、会社名を残したまま事業内容を変えて生き残った例が目につきました。
ただ、これは生き残っている上場企業を中心に振り返っているからでもあります。国内でも、FIVEのように大手プラットフォームの傘下に入り、広告基盤へ統合されていった例はあります。FIVEは2017年にLINEの完全子会社となり、2020年には合併によりNAVERの連結子会社一覧から外れています。
LINE「FIVE Inc. to Become Wholly Owned Subsidiary of LINE Corporation Through Capital Alliance」
海外でも2020年代に、アドテク企業同士の統合が進みました。
代表例のMagniteは、2020年にRubicon ProjectとTelariaが合併して誕生し、2021年には動画広告のSpotXを約11.4億ドルで買収しています。
Magnite「Rubicon Project and Telaria Complete Merger」
Magnite「Magnite Closes SpotX Acquisition」
多角化して残る会社もあれば、統合の中に入っていく会社もある。
2010年代のように、DSPやSSPそのものが独立した成長ストーリーになる時代からは大きく変わりました。
広告会社は中間にいるからこそ、次の価値を探し続ける
ここまで見てくると、各社がなぜ次の柱を探し続けるのかも、なんとなく腑に落ちてきます。
広告会社は、広告主の商品やサービスと、媒体やプラットフォームの間をつないで価値を作ってきました。
だから広告配信の技術が標準化されたり、GoogleやMetaなどのプラットフォーム側で自動化されたりすると、それまで人や専用ツールが担っていた仕事の一部はそちらへ移ります。
その先で各社が持とうとしたものは、それぞれ違いました。
自社サービス、SaaS、メディアやIP、投資や別事業。
A8.netのように、長年築いたネットワークそのものを磨き続けた会社もあります。
こうして見ると、これは単なる広告会社の歴史というより、「中間にいる会社が、技術の波で価値が移るたびに何を自分の資産へ変えられたか」という話なのかもしれません。
次はAIが広告運用の価値を動かしている
そして2026年の今、次の変化としてAIがあります。
GoogleはAI Maxを検索広告やショッピング広告へ広げ、Google AdsやGoogle AnalyticsにもAIエージェント的な機能を追加しています。
Google「Google Marketing Live 2026」
AIによって広告会社そのものが不要になる、とまでは思いません。
ただ、入札、ターゲティング、広告文生成、分析といった「広告をうまく回す」仕事は、昔ほど特別な技術ではなくなっていきそうです。
そうなると、これから価値を持つのは顧客データ、販売チャネル、一次情報、ブランド、IPなど、広告運用の外側にある資産かもしれません。
2010年代にスマホ広告会社だった企業の多くは、AIが来るよりずっと前から「広告の次」を探していました。
技術の波が来るたび、広告会社はなくなるのではなく、価値を置く場所を変えてきた。
ITバブル、フィーチャーフォン、スマートフォンと主役が変わってきたように、AIでもまたプレイヤーの顔ぶれは変わるのでしょう。
10年後に今のマーケティング会社を見返したとき、また「この会社、今は何屋だっけ」と調べている気がします。
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